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間抜けなソットの幸せな一生 21 [物語]

 翌朝、ソットが目を覚ますと、既に日は高く昇っていた。しまった!寝すぎた!!とは思うものの、仕方がないよ、頭が痛かっただから、とも思う。父さんが言っていた、怪我には気を付けろ!と。予想以上に体力を奪うものだから、と。まだ、元気なうちは良いんだよ、気力で何とか乗り切れるからさ、でも、体の痛みってやつは急激に体力を奪うんだ、で、体力がなくなってくると気力もへったくれもなくなってくる、そうすると一気にばてちゃって仕事が全く進まなくなる、気力で何とかなるのは体力のあるうちさ、だから、極力怪我はしないように気をつけなきゃいけない、そう父さんは教えてくれた。

 そうさ、と、ソットは割り切る事にする。そして昨日の晩の食べ残しのパンを食べ、水筒に水を一杯に入れてホテルを後にする。

 ホテルの前の雑貨屋で昨日と同じパンとチーズを買う。おそらく隣の街まで食べ物を買えるようなところはないだろう。昨日、雑貨屋の主人に聞いたところによると、今日朝早く発てば、次の街を越えて、何とか晩までには3つ目の街まで行けるだろうとのことだった。で、この街から次の街までは何もない、と。もしかしたらこの店でパンを買わせるための嘘なのかも知れないが、それはそれで良いじゃないか、とソットは思う。どうせ昼飯は食べなければならないし、用心に越したことはない。この状況で、ご飯を食べ損なうのは危険だ。雑貨屋は、「気をつけて。あなたの幸せを祈っています」と言って送り出してくれた。

 日が高くなっているのを見て、今日中に3つ目の街まで行けるかどうかは分からないな、と思う。もし今日中に3つ目の街まで行ければ、明日はまる一日国境の山越えに使えることになる。いずれにせよ、行けるところまで行くしかないのだ。今まできた道は、決して引き返すことの出来ない道だ。同胞の難民キャンプでどの程度の歓迎をされるかは定かではないが、少なくとも受入れてはくれるだろう。引き返したところで、そこでは誰も受入れてはくれないのだ。

 案の定、何もなかった。ただひたすら平原で、道がまっすぐ続いている。あぁ、山登りの方がよっぽど楽なのに、とさえ思う。平地でも単調な道は本当に疲れるのだ。たださえ、後頭部の痛みは完全には消えていない。ソットはもう開き直って、ゆっくり行くことにした。どうせ焦っても何も出来ないし、どうせならもうあまりいろいろなことを心配したくはないのだ。

 お腹がすいたので、座ってパンを齧ることにする。お腹が一杯になると草の上にごろんと寝転んだ。するとソットの目に青空と雲の白が飛び込んでくる。ソットはハッとする。それは数ヶ月ぶりに見る見慣れた景色だった。延々と続く草原と向うに見える白い山、そんな景色はソットの住んでいた地域ではお目にかかれなかった。どこに行っても、何を食べても、あの故郷の景色がソットの脳裏から離れなかった。もう二度とあそこには戻れないと思うと、堪らない気持ちになるので、ソットはなるべく考えないようにしていた。でも、目の前に広がる空は故郷のものと変らない。空だけはどこに行っても変らないのだな、と当たり前のことを考えて、ソットの目からは涙が一筋こぼれ落ちた。

 街についた時には、すっかり日が暮れていた。今日中に3つ目の街どころではない。頭痛のせい、頭痛のせい、ソットは自分で自分を慰める。閉店間際の店に飛び込み、パンとチーズを買う。そして安宿を探してさっさと投宿した。明日こそ、早起きして早々に3つ目の街を突破し、国境越えの登山を制覇したい、そうソットは心を決める。

 


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